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弱いまま強くなるために(27)
2015/7/16 塾長ブログより
 
傷つきやすい青年はみんなが自分の顔をじろじろ見ているのが分かっていた。意識ははっきりしていた。

たつやの顔が目の前にある。目玉焼きを焦がしたような顔がある。その両脇には先生と奥さん。少し外れてまー君の顔がある。さとるの顔はみえない。

まー君がふざけるように青年の顔にビンタを張った。青年はそのまま倒れた。

「こいつ、しらばっくれているんのよ、ほうら、顔つきが変わったじゃない」

ビンタはなでるようにしか感じられなかったが、倒れ込んだとき、腰に痛みが走って体に力が入った。力が入ったといっても、みぞおちあたりからじわじわ広がっていく。液状の生き物が体の中に広がっていくような感じがあった。

青年は体の位置を動かしてみた。思ったより動いた。見上げた。ちょうどまー君の肩越しに傾いた陽が一直線に差し込んでまぶしかった。まー君の顔がゆっくり笑っている。青年は一瞬体が浮いたように感じられた。

「このおかま野郎」

この心外な言葉が青年の口をついて出た。

思いのほか大きな声だった。まだ残響が体に残っている。普段の青年なら決して言わない言葉が自分に不意打ちを食らわすように洩れた。洩れたというより口から飛び出したのだ。

いつの間にかみんなが立ち上がっている。しばらく固まった表情を見せていたまー君の顔色がみるみる変わっていった。

「おかまじゃないって言ってるでしょう、おかまじゃないんだから、もう、やんなっちゃう」

そういうと、まー君は倒れている青年の体に馬乗りになって、青年の顔を何度も何度も打った。青年はされるがままになっていた。周りの者も誰も止めようとしない。

まー君は殴りつかれたのか、その場にへたり込んでいる。うつむいた顔からは滴がしたたり落ちて、白い板を濡らしている。まー君の涙だった。

さわやかな風が吹き抜け静かな時間が流れた。カズさんがうううっと声を上げた。両手を頭の上に持って行って背伸びをした。

奥さんがまー君に寄り添い、慰めている。まー君は奥さんの言葉に頷きながら、奥さんの膝の上で涙を拭いていた。たつやとさとるはたったまま、まー君と奥さんを眺めていた。カズさんといえば、また缶ビールを手にもったまま舟をこいでいる。

青年がぬっと立ち上がった。

「おまえ、改めてみると、大きいなあ、いままで縮んでいたのか、あははは」

と先生が何食わぬ顔で言っている。目立たない生徒にも目配りを忘れない先生の面目躍如である。茫洋としていながらも、誰も気づかないようなところを見落とさない。普段はのそのそ歩いているが、いざとなると時速40キロで獲物を追う熊、その綽名通りの俊敏さである…少しほめ過ぎか…

先生の言葉で、誰もが一斉に青年を見上げた。

180㎝は優にあろうかという背丈が、すっと伸びて堂々として立っている。青年がテラスのほうへ歩みかけると、たつやが飛んできて

「まて、どこへいくんだ」

たつやはラグビーのタックルでもするかのように、青年の腰のあたりをつかんだ。青年はたつやを投げ飛ばた。たつやを気にするふうもなく、カズさんの脇を通って、テラスの西の端に立つと、服を脱ぎだした。

素っ裸になった。

青年の意外にもがっしりした体型が西陽に縁どられ光っている。黒い背中がわずかにねじれた次の瞬間、青年はひざを深く折り曲げると思いっきり体を逸らした。青年の中央から噴水が上がった。西陽に照らされて七色の粒子が虹をつくった。

青年はいきなり振り向くと、そのままみんなの前に立った。長身で筋肉質のがっしりした体型の中央には子供のそれのような性器が生意気そうに垂れている。

「僕は全部が僕なんだ」

今度は自分の意志でそう言った。
 
弱いまま強くなるために(26)弱いまま強くなるために(完)
 
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